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東京地方裁判所 昭和53年(特わ)2587号 判決 1982年2月25日

主文

一  被告人佐野友二を懲役三年に処する。

この裁判確定の日から五年間右刑の執行を猶予する。

二  被告人有泉四郎を懲役二年に処する。

この裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。

理由

(被告人両名の経歴、地位)

被告人佐野友二(以下「被告人佐野」という。)は、郷里の尋常高等小学校高等科、同夜間補習科二年終了後、保険外務員、兵役、土建会社役員等の職歴を経て、昭和二一年一二月、横浜市において土建資材株式会社(後の不二サッシ販売株式会社)を設立して代表取締役社長となり、土建関係金物資材の販売等の営業をしていたところ、知人の依頼を受け、同二二年一二月ころ、会社整備計画実施中の株式会社不二製作所(後の不二サッシ工業株式会社)の全株式、土地、建物、資材等一切を三六〇万円で譲り受け、同社の専務取締役となつた。そして、同被告人は、同社の再建に努め、会社整備計画完了に至つた同二四年一月ころ、前社長の死去に伴い同社代表取締役社長に就任した。爾後右両会社の業績の進展、事業の拡大等に従い、両社がそれぞれ不二サッシ工業株式会社、不二サッシ販売株式会社と商号を変更し、一部上場企業に発展していく間も、同被告人は終始一貫して代表取締役社長としてその業務全般を統括する地位にあり、この間各種関係会社の役員及び社団法人日本サッシ協会理事長、経済団体連合会理事、通商産業省産業構造審議会アルミ部会委員等の公職を歴任し、いわゆるアルミサッシ業界を代表する経済人として幅広く活動を続けてきたものであるが、本件前記両社のいわゆる粉飾決算(架空利益計上、以下「粉飾決算」という。)に関連して同五三年三月両社の代表取締役社長を、更に同年六月には取締役会長をも辞任し、その他の各種会社、団体等の役職も殆ど辞任するに至つた。

被告人有泉四郎(以下「被告人有泉」という。)は、海軍兵学校、東京大学文学部(中退)を経て日本大学経済学部を卒業し、この間大蔵省主税局、麹町税務署等に勤務するなどした後、東京生命保険相互会社社長富成宮吉の秘書をしていた昭和二九年ころ、同人と親交を結んでいた被告人佐野を知り、同三二年八月右富成の紹介で同被告人経営の株式会社不二製作所に入社した。爾後被告人有泉は、同社にあつて一貫して経理畑を歩み、同社経理部経理係長、同課長、経理部次長を経て、同三九年二月には経理部長兼事業課長に昇進し、同四一年一一月取締役に選任され、同四四年五月には不二サッシ販売株式会社取締役経理部長の職にも就き、同四五年八月には右両社の経理担当常務取締役となり、次いで同四七年一〇月両社の経理本部長に就任し、同五一年六月には両社の経理担当専務取締役に昇格するなど両社の経理を統括する地位にあつた。その後同五二年六月、社内方針に従い不二サッシ販売株式会社の取締役を辞任し、翌五三年二月には、本件粉飾決算に関連して不二サッシ工業株式会社の取締役をも辞任するに至つた。同被告人は、入社以来一貫して経理事務を担当してきたものであるが、経理能力に優れ、被告人佐野の信任厚く、ことに両社の経理本部長に就任した同四七年一〇月以降は、同被告人の指示を受けつつ粉飾決算に関しても両社の経理業務一切を実質的に指導統括していた。

(関係法人の概要)

一不二サッシ工業株式会社

不二サッシ工業株式会社は、昭和五年七月設立された株式会社不二製作所が同三五年一月商号を不二サッシ工業株式会社と変更した会社である(以下、右商号変更の前後を通じて「不二サッシ工業」という。)。同社は戦後主としてオーダースチールサッシの製造、販売等を業とし、同二八年三月には川崎市中丸子一三五番地東洋造機株式会社を吸収合併し、同所に本店、本社工場を置くなどして順次業績を伸ばし、数次に亘る増資の結果、同三二年ころには資本金二億円の企業に成長していた。しかるところ、同社は、同年ころより被告人佐野の積極的な経営方針に沿つてアルミサッシの製造、販売に、いち早く進出し、同三三年五月右本社工場内のアルミサッシ工場を新設したのをはじめとしてビル用オーダーアルミサッシの製造、販売を開始し、翌三四年には同規格サッシ、次いで同三六年六月からは住宅用アルミサッシの製造を開始するなど、我国アルミサッシメーカーのパイオニアとして同業界における中心的企業の地位を確立した。また、同社は、かような業績の進展につれ、アルミサッシ一貫生産体制の確立、各種工場新設等を逐次実施したこと等に伴い資本金も順次増加し、同四五年五月には四八億〇三七五万円に達したが、同四〇年代前半から住宅用サッシにアルミサッシの主流が移行するにつれ、漸く後発メーカーが同分野に進出するに至り、ここにアルミサッシ業界には過当な販売競争が展開されることとなつた。ところが不二サッシ工業は、販売面での立遅れ等が響き、先発メーカーとしての利点を生かすことができず、住宅用サッシのシェアを他のメーカーに奪われるに至り、同四六年には業界二位、同四八年ころには業界三位に転落したものの、なお、ビル用オーダーサッシの分野では同五二年ころまで業界一位のシェアを保持していた。この間同社は第五五期(同三二年六月一日から同年一一月三〇日までの事業年度。以下「三二年一一月期」といい、他もこれに倣う。)から年率一割の利益配当を実施し、第六二期(三六年五月期)からはこれを年率一割五分、第七〇期(四〇年九月期)からは年率一割二分、第八一期(四六年三月期)からは年率一割、第八九期(五〇年三月期)には年率六分に変更しながらも、利益配当を継続していたが、第九〇期(五一年三月期)からは利益配当を中止している。なお、同社の株式は同三六年一〇月から東京証券取引所第二部市場に、次いで同三八年一〇月から同第一部市場にそれぞれ上場されていた。

二不二サッシ販売株式会社

不二サッシ販売株式会社は、被告人佐野が昭和二一年一二月に資本金一八万五〇〇〇円で設立した土建資材株式会社が、同二四年一〇月大成産業株式会社と商号変更し、更に同三四年九月ころから不二サッシ工業の特約店としてサッシの販売を始めたことに伴い同三六年六月に不二サッシ販売株式会社と商号変更した会社である(以下、右商号変更の前後を通じて「不二サッシ販売」という。)。同社は、当初土木建築用資材の販売等を行なつていたが、前示のとおり同三四年ころから不二サッシ工業の販売特約店としてアルミサッシの販売を行なうようになり、同四〇年二月には同社の営業部門を合体してビル用オーダレアルミ製品の販売も取扱うこととなり、名実共に同社の総発売元としての地位を確立した。この間、全国各地に営業所を設置するなど販売網の整備に努めた結果、不二サッシ工業同様逐次増資を重ね、同四〇年一二月には資本金一〇億円の企業に成長した。不二サッシ販売は、同四八年から本店を不二サッシ工業と同所に置くなど実質的にはその販売部門ともいうべき会社であり、その業績も不二サッシ工業とともに順次進展してきたものの、同四〇年代後半には工務店等に直接販売する、いわゆる直売方式をとる後発サッシメーカーに次第にシェアを奪われ、住宅用サッシのシェアは業界一位から三位に逐次転落していつた。不二サッシ販売は同三〇年代初めころより年率二割の利益配当を続け、その後第三九期(四一年五月期)から年率一割五分、第四七期(四五年九月期)一割二分、第四八期(四六年三月期)から一割、第五六期(五〇年三月期)六分と順次配当率は低下したが、利益配当を継続していたものであるが、第五七期(五一年三月期)から利益配当を中止している。なおこの間、同社の株式は同三八年一〇月から東京証券取引所第二部市場、次いで同四一年一〇月から同第一部市場に上場されていた。

(犯行に至る経緯)

本件各犯行は、不二サッシ工業、不二サッシ販売両社の各四八年九月期から五二年三月期における粉飾決算に際して行なわれたものであるところ、右両社の粉飾決算は遠く昭和三五年ないし同三七年ころから継続されてきた粉飾経理を背景とするものであり、その概況は以下のとおりである。

不二サッシ工業は、戦後主としてオーダースチールサッシの製造、販売を行なつていたものであるが、昭和二四年被告人佐野が社長に就任してからは、取引先倒産の影響で一時苦境に立つたものの、その品質の優秀性と折からの経済成長に伴う建築需要の拡大等が相まつて順調にその業績を伸ばし、スチールサッシメーカーとしては、業界第一位を占め、三二年五月期には利益を計上するに至り、翌三二年一一月期からは年率一割の利益配当を行なうようになつた。もつとも、同社は、同二八年三月、埼玉銀行からの強い要請により、同行が多額の不良債権を有する東洋造機株式会社を吸収合併した際に、その買収資金を同行からの借入金までまかなつたこと及び合併後同行から右東洋造機に対する簿外債権約六〇〇〇万円の返済をも求められ、爾後簿外資金で逐次返済するの己むなきに至つたことなどから、同行に多額の債務を負担するに至り、その経理状態は必ずしも十全なものとは言い難かつた。しかるところ、不二サッシ工業は、昭和三二年ころから、業界他社に先がけてアルミサッシの導入に着手し、アルミサッシ製造工場の新設、次いで一貫生産体制の確立、下請会社の系列化等を図つたが、これに要する多額の資金を専ら金融機関からの借入に仰ぎ、更にこの間の同社の急成長振りに着目した埼玉、大和両銀行から、両行が不良債権を抱える会社への資本参加、経営建て直し等を依頼され、実質的に両行からの借入金によつてその債務の肩替りをしたり、関係会社への過剰投資等を余儀なくされたこともあつて、金融機関に対する借入金残高が急増し、支払利息の増加を来す一方、同三三年五月から販売を開始したビル用アルミサッシ等の売上は順次増加してきたものの、新たにその広告宣伝、販売網整備等にも借入資金の投入を必要としたため、収益を向上させるには至らず、同三五年ころからは従前の利益配当を継続することができない状況となつた。しかしながら、被告人佐野は、折から不二サッシ工業の株式市場への上場を計画していたこともあり、自らかかる経理の実態を明らかにすれば成長企業であるとの一般の評価を下げ、ひいて金融機関からの資金調達に困難を来し、受注の相当部分を占める官公庁の指名入札参加資格を損うような事態を招来することとなるので得策でなく、当時漸く一貫生産体制を整えたアルミサッシの製造、販売が軌道に乗れば、折からの売上の増加傾向に照らしても、その業績は近い将来十分に回復しうるものと考え、粉飾決算によつて会社の対外的信用を維持することを決意し、このころから不二サッシ工業常務取締役経理部長工藤侃らに指示し、本社工場の固定資産、棚卸資産の過大計上等の方法により架空利益を計上して利益配当を行なう粉飾決算を開始するに至つた。ところが、不二サッシ工業は、その後も事業拡張に伴う設備投資、関係会社への資本投下等のための資金需要から借入金が増大する一方、設備過剰等によるコスト高を招き、被告人佐野の前記予想に反しアルミサッシ製造、販売による収益が進展せず、同四二年ころまで毎期赤字を続け、漸く同三九年後半から開発し発売するに至つた住宅用アルミサッシFKが爆発的な人気を呼んだことから、しばらくは同社の業績も改善され、四三年九月期から四五年九月期にかけて毎期二、三億円程度の税引前当期利益を計上した。しかしながら、前記のとおり、不二サッシ工業は、同三五年ころから粉飾決算を開始しており、以来、毎期のように実質欠損を生じていたにもかかわらず、粉飾によつて利益配当を継続するなどしてきたため、既に四三年九月期ころには同社の粉飾による過大計上額は六六億円以上に達しており、右程度の実質利益があつても、到底配当可能利益を計上することはできない状況にあつた。しかるに、被告人両名らは、未だ発展途上にある会社の対外的信用を維持し、資金調達及び下請企業等に対する支払手形決済の便宜ないし円滑化等を図るため配当を継続しながら、関係会社の整理を推進し、販売面に主力を傾注する等の対策を講ずることにより十分その業績の回復及び経理の改善をなしうるものと判断し、架空売上等の方法をも併せて粉飾決算を継続していた。ところで、前示のとおり、不二サッシ工業の発売したFKサッシに対する需要者の好評をきつかけとして、同四〇年代前半のアルミサッシの主流は住宅用サッシに移行していつたが、このころから後発メーカーが続々と住宅用アルミサッシの分野に参入し、業界においては、過当なシェア争い、販売競争が繰り広げられるに至り、その結果として、同社としても利潤率が逓減し、売上自体は増加してもそれが利益上昇に結びつかない状態に推移したうえ、同社のみが単独で値上げを実施した結果となつた同四三年ころの値上問題処理の不手際等から吉田工業等にシェアを大幅に奪われ、更に同四四年ころから開発、発売した電子ロック式サッシが意外に不評を買つたため、販売量がのびず、多量の在庫を抱えて約二〇億円の損失をこうむるなどしたところから、同四六年ころからは一般運転資金補填のための借入金が急増し、四六年三月期以降は再び毎期欠損を出す状況となり、ことに四七年九月期ころからは売上高対支払利息率が一割にも達する程となつた。被告人佐野らは、この間関連会社の整理を含めた事業の見直し、不二サッシ工業、不二サッシ販売両社の合理化等に努め、同四七年一〇月からは右両社間に事業本部制を採用するなど、業績の回復に尽力したもののその成果は容易に顕われず、却つて不二サッシ工業の経理状況は悪化するばかりであつた。しかし、被告人両名らは、会社の信用維持、資金調達の円滑化等の必要から、四六年三月期以降も前同様の方法により粉飾決算を実施していた。

不二サッシ販売は、設立以来土木建築金物資材の製造、加工、販売等を行なつていたところ、不二サッシ工業がアルミサッシの製造、販売を開始したことに伴い、昭和三四年九月ころから、その特約店としてサッシ販売にあたるようになり、同社の進展につれて売上は順次増加していつたが、一方同社の総発売元として販路拡張のため短期間に全国各地に営業所を設置するなど設備投資に多額の資金を要し、それらの大部分を金融機関からの借入金等に依存したため、支払利息が次第に増大して経費を圧迫し、同三七、八年ころからは、年率二割の利益配当を継続することができない状況となつた。しかしながら、被告人佐野は、折から同社について株式市場への上場を予定していたこともあり、金融機関から円滑に資金調達を図る必要などから、不二サッシ販売専務取締役河西睦夫らに指示して、先行売上、外注サッシ売上原価未計上等の方法による粉飾決算を開始し、従前同様の利益配当を行なつていた。不二サッシ販売は、その後同四〇年二月には、不二サッシ工業の営業部門と合体し、オーダーサッシの販売も取扱うようになり、名実共に同社製品の総発売元となつたが、その売上は予想ほど伸びず、却つて後発メーカーの進出による値引競争の激化で利潤率が逓減する一方、大幅にシェアを奪われるに至つた。そこで被告人佐野は、販売面に力を注ぎ、シェアを奪回すべく更に金融機関からの借入金等によつて営業所の増設等を続けたが、その結果は、借入金総額は増加する一方、過当競争に伴う採算悪化等により売上収益は容易に伸展しなかつたため、不二サッシ販売の業績は概ね収支均衡か赤字基調に推移した。しかるに被告人佐野らは、この間も配当を維持することによつて資金調達を容易にするとともに、会社の社会的信用を維持して、官公庁等からの発注工事の入札指名資格を保持するなどの必要から先行売上計上等の方法により、毎期粉飾決算を行ない、利益配当を継続していたため、同四四年ころには粉飾による過大計上額は三〇億円に達した。同社は、その後も値下競争に遅れをとり、直販方式を採用している他社にシェアを奪われ、かつ、熾烈な販売競争に伴う採算悪化等に悩まされ、運転資金等の借入増加につれて支払利息が増大したため、一時多少の営業利益を計上したこともあつたが、ほとんど毎期多額の未処理損失を出していたのが実態であつた。ところが被告人両名らは前記のような事情から会社の対外的信用維持の必要上、架空売上計上等を加えた方法によつて粉飾決算を実施し、利益配当を継続していた。

かように、不二サッシ工業、不二サッシ販売両社の業績は、昭和三〇年代後半以降、売上は逐次増加していつたものの、後発アルミサッシメーカーの急進による販売競争の激化に伴う採算の悪化、シェア喪失とこの間の事業拡張、関連会社への過剰投資等に伴う金融機関からの借入金増大に附随した支払利息増などにより概ね悪化の一途をたどり、各期とも繰越欠損を考慮すれば、到底配当可能なだけの利益をあげることができない状況にあつたにもかかわらず、前示の如く被告人両名らにおいて会社の対外的信用維持、資金調達の円滑化を図る等の目的のため毎期粉飾によつて架空利益を計上し、利益配当を継続したことにより、その粉飾による過大計上の累積額は四八年三月期ころまでには、不二サッシ工業において約一一〇億円、不二サッシ販売において約四五億円に達し、到底両社とも短期間に業績を回復し利益配当をするに足る十分な利益を計上する可能性は存しなかつた。更に、翌四八年九月期以後右両社の業績は、経済状況の変動も加わり、急激に悪化し、四九年三月期ころ、オイルショックによる物価高騰の波に乗り、それぞれ約一〇億円ないし約三億円の利益を計上したものの、翌期(不二サッシ販売においては翌々期)以降はその反動等により極端な業績不振に陥り、毎期多額の実質当期損失を生ずるに至つた。しかるに、被告人両名らは、このような両社の経理の実態を公表すれば、一挙に倒産の危機に瀕し、下請企業等へも重大な影響を及ぼしかねないことを恐れ、前同様の目的・方法の下になお架空利益を計上して粉飾決算を続け、後記の如き犯行に及んだものである。

その方法、態様は、両社、各期ともほぼ同様であり、概ね毎期①決算締切日の二か月ないし一か月半位前に、各社の経理課長らがそれぞれ期首から三か月間の真実の損害実績を基にして、「当期実態予想損益計算書」を作成し、被告人有泉をはじめとして、不二サッシ工業においては竹内武夫(昭和四四年ころから経理部長を勤め、同四八年一一月同社取締役、同五一年六月から本件両社の経理担当常務取締役となつた。)以下石橋康男経理課長ら、不二サッシ販売においては鈴木芳夫(同四五年ころから経理部長を勤め、同五一年六月に同社取締役に就任した。)以下佐久間英信経理課長ら両社の経理部関係者によつて開催される経理会議において、これを参考として当期の実績を検討、予想し、②そのころ被告人有泉において、被告人佐野に対し右予想を説明してどのような決算をするかにつき指示を仰ぎ、被告人両名協議のうえで、被告人佐野が利益配当額及びこれに必要な税引前当期利益の金額又は税引前当期損失の金額等を具体的に決定して、被告人有泉にその旨指示し、③その直後ころ、被告人有泉は不二サッシ工業にあつては前記竹内らに、不二サッシ販売にあつては前記鈴木らに右指示の内容を伝達して、架空利益計上のための粉飾経理を指示し、④続いて、被告人有泉は両社東京事務所において、各工場、支店の経理担当者らを含めた経理関係者との間で粉飾打合せ会議等を行なうなどして、具体的な粉飾経理の内容、方法を打合せてその実行を指示し、⑤これに基づき、両社の経理担当者は、期首に遡つて粉飾伝票の作成、関係帳簿、書類等の書替えなどにより粉飾経理を実行していたが、その内容としては、不二サッシ工業においては、先行売上、架空売上、棚卸資産・固定資産の過大計上、工場遊休地の仮装売却、外注費、買掛金の過少計上等であり、不二サッシ販売においては先行売上、架空売上、売上原価の繰延・圧縮等があり、⑥決算期日の一か月過ぎころ、両社の経理課長らが、それぞれ右粉飾経理に基づく定時株主総会提出用の決算書類案を作成し、次いで、被告人有泉らにおいて決算会議を行ないこれを検討し、⑦そのころ被告人有泉から被告人佐野にこれを説明し、その際被告人において役員賞与支給額(案)を最終的に決定して右各案を了承し、⑧定時株主総会の三週間前ころ開催された両社合同の決算役員会の席上、被告人両名らからこれを説明してその承認を受け、決算書類案の内容の確定に至るというものである。

(罪となるべき事実)

被告人佐野は、神奈川県川崎市中原区中丸子一三五番地に本店を置き、サッシその他の建具、金物類、金属製品等の製造、販売、加工などを営業目的とする不二サッシ工業及び不二サッシ販売の各代表取締役として右両社の業務全般を統括掌理していたもの、被告人有泉は、昭和四七年一〇月以降右両社の常務取締役経理本部長、同五一年六月以降両社の経理担当専務取締役として被告人佐野を補佐し、決算事務を含め実質的にその経理業務一切を統括していたものであるが、前記の如き事情のもとに

第一被告人両名は、前記竹内武夫と共謀のうえ、

一不二サッシ工業の第八六期(四八年九月期)ないし第八九期(五〇年三月期)の各決算をするにあたり、別紙一覧表(一)記載のとおり、真実は各期ともに繰越欠損を含めた多額の未処理損失があつて配当すべき利益は皆無であつたのにかかわらず、同社の信用を維持し金融機関等からの資金調達を容易ならしめる等の目的で、法令・定款の規定に違反して株主に対し利益の配当をしようと企て、架空売上を計上しあるいは棚卸資産を過大計上するなどの方法により利益を水増しさせて、各期とも架空の繰越利益、当期利益を計上した貸借対照表、損益計算書及び右架空利益を基礎とし年一割又は六分の率により利益配当金合計八億六四六七万五〇〇〇円の配当を行なう旨を記載した利益金処分案を作成し、これを同社内において開催された同社の定時株主総会に提出して承認可決させ、いずれもそのころ右案に基づく配当金の支払をなし、もつて違法な配当をした

二前記不二サッシ工業の業務に関し

1 同五一年六月三〇日、東京都千代田区霞が関三丁目一番一号大蔵省において、大蔵大臣に対し、同社の第九〇期(五一年三月期)の有価証券報告書に、同期の決算の実際は当期未処理損失金が二六九億二六九四万四千円であつたのに、架空売上を計上しあるいは固定資産を仮装売却するなどの方法により二六〇億二九三一万七千円を過少に計上して当期未処理損失金が八億九七六二万七千円であつたように内容虚偽の記載をした貸借対照表、損益計算書及び損失金処理計算書を掲載し、もつて同社の経理状況等のうち重要な事項につき虚偽の記載をした有価証券報告書を作成して提出した。

2 同五二年六月三〇日、前記大蔵省において、大蔵大臣に対し、同社の第九一期(五二年三月期)の有価証券報告書に、同期の決算の実際は当期未処理損失金が三三一億五二六八万五千円であつたのに、先行売上を計上しあるいは棚卸資産を過大計上するなどの方法により三三三億四八三四万三千円を過大に計上して当期未処分利益金が一億九五六五万八千円であつたように内容虚偽の記載をした貸借対照表、損益計算書及び利益金処分計算書を掲載し、もつて同社の経理状況等のうち重要な事項につき虚偽の記載をした有価証券報告書を作成して提出した

三不二サッシ工業の第八六期ないし第八九期の決算は別紙一覧表(一)の記載のとおり欠損であるのに取締役及び監査役に対する賞与を支給しようと企て、同社の期末決算の結果、利益が生じていない場合は取締役及び監査役に対し賞与を支給してはならず、かつ、支給の可否を決する株主総会には真実の貸借対照表、損益計算書とこれに基づく利益金処分案を提出すべき任務を有していたのにかかわらず、自己及び他の取締役らの利益を図る目的をもつて、右任務に背き、同表記載のとおり、右各期の定時株主総会において、利益があつた旨の各内容虚偽の貸借対照表、損益計算書及び別紙一覧表(二)記載の役員賞与金の支給を行なう旨の利益金処分案を提出し、右総会をしてこれを承認可決させ、同表記載のとおり、同四八年一二月一四日ころから同五〇年七月一六日ころまでの間、四期分についてそのつど、同社において、被告人両名ほかの二六名の取締役及び監査役に対し役員賞与として合計五九五六万円を支給し、もつて同社に同額の損害を与え、なお同表番号2第八七期分役員賞与支給決議額中一四四万円については、役員仮受金として同社内にそのまま留保されて支給に至らず、損害を加えるに至らなかつた。

第二被告人両名は、

一前記鈴木芳夫と共謀のうえ、不二サッシ販売の第五三期(四八年九月期)ないし第五六期(五〇年三月期)の各決算をするにあたり、別紙一覧表(三)記載のとおり、真実は各期ともに繰越欠損を含めた多額の未処理損失があつて配当すべき利益は皆無であつたのにかかわらず、同社の信用を維持し金融機関等からの資金調達を容易ならしめる等の目的で、法令・定款の規定に違反して株主に対し利益の配当をしようと企て、架空売上、先行売上を計上するなどの方法により利益を水増しさせて、各期とも架空の繰越利益、当期利益を計上した貸借対照表、損益計算書及び右架空利益を基礎とし年一割又は六分の率により利益配当金合計一億八〇〇〇万円の配当を行なう旨を記載した利益金処分案を作成し、これを同社内において開催された同社の定時株主総会に提出して承認可決させ、いずれもそのころ右案に基づく配当金の支払をなし、もつて違法な配当をした

二前記不二サッシ販売の業務に関し

1 鈴木芳夫と共謀のうえ、同五一年六月三〇日、前記大蔵省において、大蔵大臣に対し、同社の第五七期(五一年三月期)の有価証券報告書に、同期の決算の実際は当期未処理損失金が七八億二五六二万二千円であつたのに、先行売上を計上しあるいは原価を繰延べるなどの方法により七〇億三四九六万六千円を過少に計上して当期未処理損失金が七億九〇六五万六千円であつたように内容虚偽の記載をした貸借対照表、損益計算書及び損失金処理計算書を掲載し、もつて同社の経理状況等のうち重要な事項につき虚偽の記載をした有価証券報告書を作成して提出した

2 竹内武夫及び鈴木芳夫と共謀のうえ、同五二年六月三〇日、前記大蔵省において、大蔵大臣に対し、同社の第五八期(五二年三月期)の有価証券報告書に、同期の決算の実際は当期未処理損失金が九八億〇二三〇万七千円であつたのに、架空売上を計上するなどの方法により九五億七二五五万二千円を過少に計上して当期未処理損失金が二億二九七五万五千円であつたように内容虚偽の記載をした貸借対照表、損益計算書及び損失金処理計算書を掲載し、もつて同社の経理状況等のうち重要な事項につき虚偽の記載をした有価証券報告書を作成して提出した

三共謀のうえ、不二サッシ販売の第五三期ないし第五六期の決算は別紙一覧表(三)記載のとおり欠損であるのに取締役及び監査役に対する賞与を支給しようと企て、同社の期末決算の結果利益が生じていない場合は取締役及び監査役に対し賞与を支給してはならず、かつ、支給の可否を決する総会には真実の貸借対照表、損益計算書とこれに基づく利益金処分案を提出すべき任務を有していたのにかかわらず、自己及び他の取締役らの利益を図る目的をもつて、右任務に背き、同表記載のとおり、右各期の定時株主総会において、利益があつた旨の各内容虚偽の貸借対照表、損益計算書及び別紙一覧表(四)記載の役員賞与金の支給を行なう旨の利益金処分案を提出し、右総会をしてこれを承認可決させ、同表記載のとおり、同四八年一二月一四日ころから同五〇年七月一六日ころまでの間、四期分についてそのつど、同社において被告人両名ほか二二名の取締役及び監査役に対し役員賞与として合計四五〇〇万円を支給し、もつて同社に同額の損害を与えたものである。

(証拠の標目) <省略>

(弁護人の主張に対する判断等)

一弁護人は、判示罪となるべき事実第一の三及び同第二の三の各特別背任の事実について被告人両名はいずれも無罪であると主張し、その理由として、当該役員賞与の支給は、不二サッシ工業及び不二サッシ販売の信用を維持し、金融機関等からの資金調達を容易ならしめることを目的として両社の各期の決算において架空利益を計上した結果、これにより外見上粉飾決算の形式を整えて利益金処分の姿をよく見せるために行なわれたものであつて、被告人らに自己及び他の取締役らの利益を図る目的はなく、従つて、特別背任罪の構成要件たる図利の目的を欠くとする(弁護人勝尾鐐三、同依田敬一郎、同荒井洋一作成提出にかかる弁論要旨(以下「弁論要旨」と略称する。)二七四頁以下)。

また被告人両名は、当公判廷における供述及び公判調書中の供述部分(以下「公判供述」と総称する。)において、利益配当を行なう関係で対外的に決算の格好を整えるために役員賞与も支給していた旨ほぼ右主張に沿うかの如き供述をなし、更に、証人竹内武夫、同櫛野明、同工藤侃の各公判供述中にも、決算において利益を計上し、株主に対して利益配当をする一方で、役員賞与を支給しないのは書類の体裁上通らず、却つて怪しまれて粉飾経理が露見してしまう旨の証言が窺われるところである。

二よつて検討するに、関係証拠を総合すれば、

1  被告人佐野において、本件役員賞与(不二サッシ工業における第八六期ないし第八九期分、不二サッシ販売における第五三期ないし第五六期分)の支給が商法上違法なもので、それによつて会社資金の外部流出を生じ、財産状態を一層悪化させるものであるから、本来行なうべきでないことを承知していながら、役員の中で従業員たる部長らと報酬が殆ど変わらぬ者は、仮に役員賞与を支給しなければ、却つて賞与の分だけ収入が少なくなつてしまい気の毒であるうえ、役員達が役員賞与を生活給のように考え、その収入を予定して生計を立てている様子であつたことを理由として、あえて役員賞与の支給を行なつていたものであること、

2  被告人有泉においても、本件役員賞与の支給は会社に財産的損害を与えるものであり、商法上許されないことを承知していたものの、右両社の場合、役員報酬が低いためこれを補填する意味があるものと理解し、被告人佐野の指示を受けてその支給方を実行していたこと

を認めることができる。

弁護人は、右の如き趣旨の被告人両名の各検面調書供述の信用性を争う(弁論要旨二七七頁以下及び二八八頁)が、被告人佐野において検察官に対して述べたことは間違いない旨自認していること(第一八回公判。なお弁護人は、同被告人の右公判供述の趣旨をも争うが、右公判供述は第一回公判以来特別背任罪における図利目的の存在を否認し、従つて、検面調書中の役員賞与支給の目的に関する部分に対しては最も注意を払つていたものと考えられる同被告人の最終的な被告人質問段階での供述であること、翌一九回公判における個別具体的な質問に対しても積極的かつ明確に否定しているものとは窺われず、却つてそこで弁解する如き二社からもらうような場合には一方会社からの役員賞与受領額をゼロあるいは低額にするよう配慮したとの供述にもかかわらず、実際は不二サッシ工業又は不二サッシ販売のいずれにおいてもそのような形跡は、本件役員賞与に関する限り何ら認められないこと等に照し理由がない。)、被告人有泉において検面調書の当該部分に関する弁護人からの質問に対し、役員に対する生活給的な意味が存したことを事実上肯認していること(第一七回公判)その他各検面調書の記載内容及びこれに対する被告人両名の公判供述等諸般の事情を勘案するに、所論は採用の限りでない。

次に弁護人は、本件役員賞与はその支給の時期、率ともに一般従業員の賞与に準ずるもので、金額的にも低く、実質的には役員報酬の一部であつたと認められ、被告人両名にも明確な利益処分としての役員賞与という意識はなかつた旨主張する(弁論要旨二八六頁以下、二九一頁以下)。所論の趣旨は、要するに本来役員報酬として損金計上すべき額の一部を粉飾決算の格好を整えるため、利益処分としての役員賞与の形をとつて支給したというにあるものと解される。

しかしながら、元来役員報酬は、会社役員の職務執行の対価として決算における利益の存否にかかわらず、経費として支給されるべきものであるのに対し、役員賞与は企業において取締役等が利益を挙げた功労に報いるために、利益金から支給されるべき性質を有するものであり、本件両社においても、右の区別に従つた処理がされているのである。すなわち、関係証拠によれば、役員報酬については、株主総会の決議により決定されるが、それは従業員給与及び賞与と共に損益計算書中の一般管理費として計上され、承認を得ているものであるのに対し、本件役員賞与は、各定時株主総会において利益金処分の一環として承認可決され、まさに役員賞与として支給されたことが明らかであつて、経理処理上も右の区別に従つているのであるから、これを本来損金計上すべき役員報酬と同一視してはいないことが明らかである。また、本件役員賞与の支給の有無及び具体的な支給額の決定の経緯をみるに、各期とも概ね同様であつて、先ず決算期日の一、二か月前ころ、経理関係者作成にかかる「当期実態予想損益計算書」等により、当該期の実際の損益状況を了知した被告人両名においてかれこれ協議のうえ、被告人佐野から被告人有泉に対し、架空利益計上額及び利益配当率を定めてその旨の粉飾経理方を指示したうえ、決算期日の一か月後ころ、粉飾経理の結果作成された定時株主総会提出用の決算書類案を作成するにあたり利益金処分案確定のため被告人佐野において、被告人有泉と協議のすえ、当期の実際の期間損益等を勘案して具体的役員賞与金額を最終的に決定し、これを受けて被告人有泉において経理関係者らをして、右役員賞与支給を織り込んだ利益金処分案を作成させるなどしていたことを認めることができる。以上の経緯・状況に照らせば、被告人両名は、本件役員賞与が粉飾経理の結果計上されるに至つた架空利益の中から利益処分として支給されるものであることを熟知し、かかる前提のもとにその支給額等の協議、実行にあたつていたものであつて、役員報酬とは全く異なる性質のものであるとの事実の認識が存したことは明らかであり、そうであるからこそ各検面調書において、各々本件役員賞与の支給が会社財産に損害を与える商法上許されない違法なものであると十分承知していた旨供述しているものと考えられるのである。

更に、本件役員賞与額の期毎の推移をも検討すると、各期の実際の期間損益(その反映としての架空利益計上額)の動向にほぼ対応して上下していることが窺われる。

そうすると、本件役員賞与は、形式上はもとより実質上も利益処分たる役員賞与として支給されたものであり、かつ、被告人両名もそのことを認識していたものと認められ、所論のように本来経費として損金に計上されるべき役員報酬の一部を形式を整えるため役員賞与として支給すべき体裁をつくろつたものとは認められないから、結局所論は理由なきことに帰する。

以上の次第であつて、本件役員賞与は、前示の如き被告人両名間での具体的な支給決定状況等をも併せ考えると、被告人両名において協議のうえ、実質的に自己をも含めた各役員に対する生活給保証的趣旨のもとに経済的利益を与える目的をもつて支給していたものと認めるに十分である。

三しかるところ、弁護人は、仮に生活給保証的意味合いが目的として存在していたとしても、本件役員賞与の支給は一方で利益配当を行ないながら、役員賞与を支給しなければ不自然であつて却つて怪しまれるところから、粉飾決算による利益金処分の形式を整えるためやむを得ず行なつたものであり、その主たる目的は会社の信用維持等にあつた旨主張し(弁論要旨二七八頁以下、ことに三〇三頁)、前記一掲記の被告人らの供述等を援用している。

そこで所論に鑑み検討するに、先ずその援用にかかる各供述の真意は、いずれも本件粉飾決算それ自体が、直接に利益配当あるいは役員賞与の支給等自己及び関係者の利益を目的としたものではなく、外形上利益を計上した決算を公表すれば、会社の対外的信用の失堕を免れ、資金の調達等についても便宜であるところから、粉飾決算を行なつたとするに止まるか、ないしは、せいぜい右粉飾決算に伴う利益処分における一連の手続処理として利益配当、役員賞与支給が行なわれたとするに止まるものであつて、それ以上に進んで本件役員賞与を実際に支給することそれ自体が積極的、意識的に会社の信用保持等のために必要であるとの観点から、これが会社のためになされたとするものではない。ちなみに、弁護人は、被告人両名の検面調書をも論旨に沿うものとして援用している(弁論要旨二七九頁以下、二八八頁以下)。しかしながら、これらも仔細にその供述内容全体を検討すれば、前示の如き趣旨以上に出るものではないし、弁護人が特に強調する被告人佐野の昭和五三年一〇月一八日付(乙4)、同月二一日付(乙6)各検面調書中の供述(弁論要旨二八三頁ないし二八五頁)も、その記載内容全体の趣旨は、右公判供述と同旨に出たものであることが明らかであり、ことにこれらの供述が、本件役員賞与支給には役員らに経済的利益を与える目的があつたとの個別的かつ明確な同被告人の供述がなされる(前同乙6)以前のものであること等に照らしても所論の如く解すべきものとは思われない。

翻つて考察するに、およそ利益配当は、会社事業による利益を企業の共同所有者たる株主へ分配するものにほかならず、その請求権自体株主の固有権と認められるものであるから、いやしくも決算に際して利益が計上されれば、合理的な範囲内での制限はともかくとして、当然に実施すべき性格のものである(従つて、粉飾決算において架空利益を計上しながら、利益処分として利益配当をしなければ、直ちに右利益の計上それ自体が怪しまれひいては企業の営業成績および財政状態に関して故意に歪めた粉飾経理が露見する筋合のものである。)うえ、ことに本件両社の如き社外に多数の関係者が存する上場会社においては、各期の業績如何とともに、利益配当の有無、額の増減等が大きく喧伝され、株価に反映するなどして直接的に会社自体の信用にも多大の影響を及ぼすものと考えられる。これに比し、役員賞与の支給は、本来株主に帰すべき利益の中から株主総会の決議に基づく任意の利益処分として会社内部の少数者を対象として行なわれるものに過ぎず、外部に波及して株価形成等に直接影響を及ぼすが如き性格のものとは直ちに断定し難く、ましてその実際の支給の有無如何が会社の信用保持と直接かつ密接に関連するものとは解されない。そうだとすれば、専ら利益金処分案の外形的体裁を整えるために役員賞与支給の形をとつたものとする限り、一応定時株主総会において役員に支給すべき賞与の承認議決を受けたうえで、実際には支給せずあるいは一旦受領しても別途返金するなどして会社財産に実質的な損害を与えない方法で処理する便法を図ることすら十分可能であつた筈である。被告人有泉はかかる処理は困難である旨供述する(第一七回及び第一九回公判。弁論要旨二九〇頁以下)が、現に未払のまま留保されている部分が存すること(後記四参照)その他本件両社における粉飾経理の実情、役員内部の認識状況等に徴するとき、その弁解はにわかに措信し難いものである。

更に、両社は、本件役員賞与支給に関する最初の決算期である昭和四八年九月期においてすら、その実際未処理損失が、積年に亘る粉飾経理の結果、不二サッシ工業(資本金四八億〇三七五万円)で約一三〇億円、不二サッシ販売(同一〇億円)で約四七億円とそれぞれ実に資本金の三ないし四倍程度に達しており、ここに至る経緯、アルミサッシ業界の状況、両社の実態等に鑑みるとき、到底業績改善の見込みは存しなかつたものと言わねばならない。現に、両社のその後の業績をみるに、翌四九年三月期においていわゆるオイルショックによる物価高騰という異常な経済情勢のもとで、一時的に若干の好転をみたものの、爾後業績が悪化し、粉飾による当期利益の過大計上の一途をたどつたことが明らかである。かように本件当時における両社の経営状態がもはや回復の余地がないほど悪化していたことは、被告人両名においても十分認識していたものと認められる(各検面調書等)。

そうだとすれば、本件役員賞与の支給は、弁護人援用にかかる違法支出に際しての目的の主従によつて図利目的の存否を判断すべきであるとする所説(弁論要旨三〇〇頁以下)が前提とするような、一時的な業績悪化で比較的短期間に改善の見込が存するが如き状況のもとで、会社の経営危機を乗り越えるべく利益配当等を継続して会社自体の信用を保持しつつ、その間に業績回復のために適切な手段をとるなど大局的に会社の利益増進のためになされるべきケースとは態様を異にしてその程度を著しく超えており、まさに被告人両名が検面調書ではからずも供述しているように、率直に会社の厖大な赤字の実態を公表すれば直ちに倒産の危機に瀕するものと考え、かかる事態を恐れるのあまり、確たる業績回復の方策、見込もないままに惰性で粉飾決算を行ない続けつつなされたものと言わざるを得ない。

かような本件役員賞与支給時点での粉飾の動機、実情、役員賞与自体の性質、その支給の実態等を総合考慮すると、前示各役員に対し経済的利益を供与することは、本件役員賞与支給の附随的な目的に過ぎず、会社の利益をはかることが、その主たる目的であつたとは到底認められない。所論は理由がなく、採用することができない。

なお、弁護人は、本件役員賞与支給額が他社に比し低額であつたことをも指摘する(弁論要旨二八六頁、二九一頁以下)が、しかし、実質的に利益がないのに架空利益を計上して役員賞与を支給するのであるから、他社並みの賞与を支給し得ないのは、むしろ実態を考慮したものというべきであり、利益処分の形式を整えるという動機のもとでも、役員賞与が著しく低額であればそれ自体不自然で粉飾経理発覚の危険を招くことから、本件においてはそれほど低額になし得ないという事情も窺われなくもなく、むしろ前示の如く、会社の実情を顧慮しつつも役員に対する生活給保証の意図から、必要最少限の賞与を支給したものと考えられるのであつて、前記認定を左右するものではない。

四検察官主張にかかる公訴事実によれば、判示罪となるべき事実第一の三の事実中、不二サッシ工業第八七期分については、被告人両名において竹内武夫と共謀のうえ、昭和四九年五月三〇日開催の株主総会において、利益金のうちから役員賞与として二〇〇〇万円を支給する旨の利益金処分案を提出し、株主総会に承認可決させたうえ、同年七月一二日に被告人佐野友二ほか二三名に対し、現実に右二〇〇〇万円を役員賞与として支給し、もつて同社に同額の損害を与えたものとされている。

たしかに、関係証拠によれば、右事実中昭和四九年五月三〇日開催にかかる不二サッシ工業の定時株主総会において、第八七期決算にあたり、二〇〇〇万円を役員賞与として支給することを含む利益金処分案が提出され、株主総会の承認を得たことが認められる。しかしながら、同社における役員賞与支給の実情をみるに、株主総会における決議は、あらかじめ役員全体に役員賞与として支給すべき金額の総額を定めるに止まり、各人毎の具体的な支給額は、総会決議後、従業員に対する賞与支給額の決定をまつて、それらを斟酌しつつ個々に具体的に決定するというのが実情である。したがつて、株主総会の承認決議のみを以てしては、未だ具体的な各役員毎の役員賞与額は未定の状況にあることが明らかである。しかるところ、廣瀬照夫の検面調書(甲14、19、20)等によれば、右第八七期分にあつては、承認議決額二〇〇〇万円中、一八五六万円については検察官主張の日に現実に役員賞与として各役員に対し支給された(うち一〇六万円は、過年度分役員賞与過払分等仮払金と相殺)ものの、残り一四四万円については実際に支給されることなく役員仮受金として留保されたまま、昭和五三年三月期に至り、前期損益修正益に振替処理されたことが明らかである。従つて、右一四四万円については、結局役員賞与として現実に支給されたとする訴因は認定することができない。そして、被告人らは、右不二サッシ工業第八七期において、取締役としての任務に背き役員賞与金として二〇〇〇万円を支給する目的のもとに利益金処分案を作成し株主総会に提出したのであるから、商法第四八六条第一項所定の特別背任罪の実行行為を行なつたものであるが、右認定のように本件株主総会の承認決議は、未だ役員賞与の具体的支給額を決定するものではないから、右総会の決議により直ちに同社が各役員に対し賞与を支給すべき具体的債務を負担するものではないこと及び本件役員賞与はもともと支給すべき根拠のないものであるから株主総会の承認があつたからといつて直ちに現実に支給すべき関係にもないことなどにも徴すると、右一四四万円については現実に役員賞与として支給されなかつた以上同社に対し、同額の財産上の損害を発生させたことはもとより未だその実害発生の危険も発生させなかつたものというべく、同罪の未遂罪が成立するにとどまるものと認められる。したがつて、判示罪となるべき事実第一の三のとおり認定した次第である。

(法令の適用)

一  罰条

①  判示第一の一別紙(一)1、2及び第二の一別紙(三)1、2の各所為

各商法(昭和四九年法律第二一号商法の一部を改正する法律附則第一四条により、同法による改正前の商法を適用)第四八九条第三号

②  判示第一の一別紙(一)3、4及び第二の一別紙(三)3、4の各所為

各商法第四八九条第三号

③  判示第一の二及び第二の二の各所為各証券取引法第二〇七条第一項、第一九七条第一号の二(第二四条第一項)

④  判示第一の三及び第二の三の各所為各商法第四八六条第一項(判示第一の三別紙(二)2の所為中、未遂の点について更に同法第四八八条)

⑤  以上①ないし④の各所為

各刑法第六〇条

二  刑種の選択

各懲役刑選択

三  併合罪の処理

各刑法第四五条前段、第四七条本文、第一〇条(刑及び犯情最も重いと認める判示第一の三別紙(二)2の罪(既遂)の刑に法定の加重)

四  刑の執行猶予

各刑法第二五条第一項

(量刑の事情)

一本件は、東京証券取引所一部上場企業である不二サッシ工業及び不二サッシ販売両社が極めて長期間に亘つて巨額の粉飾決算を毎期行なつてきた事情を背景として敢行されたものである。すなわち、その粉飾決算は、不二サッシ工業にあつては昭和三五年ころ、不二サッシ販売にあつては同三七年ころからそれぞれ開始され、以来実に一五年有余の長期間に亘り毎期継続して行なわれてきたものであり、粉飾経理による架空利益計上額の累計も不二サッシ工業で約三三〇億円、不二サッシ販売で約九五億円に及び、いずれもその資本金を遙かに凌駕する厖大な額に昇つている。このように両社において行なわれてきた粉飾決算における粉飾額に徴するとき、これを背景として行なわれた本件犯行は、過去に摘発された同種事案の中でも大規模かつ悪質な事犯というに値するものである。とくにかような不正経理がアルミサッシ業界において永年トップ企業の地位を保持してきた社会的にも著名な大企業において行なわれたこととも相まつて、同業界のみならず広く社会全般に強い衝撃を与え、ひいて企業の社会的信用さえ損いかねない事態を招来させたものである。これを本件犯行のみに限つてみても、商法違反の面では連続四期前後二年間に亘つて違法配当として約一〇億円、違法役員賞与支給として約一億円に及ぶ多額の資金を社外に流出させ、両社に対し多額の損害を与え、会社財産を危殆に陥し入れたもので、他方証券取引法違反の面では連続二期二年間に亘り多額の欠損を隠蔽して、それぞれ実態と約二六〇億円ないし三三〇億円、あるいは約七〇億円ないし九五億円もかけはなれた全く虚偽の内容を記載した有価証券報告書を公表、提出し、よつて一般投資家はもとより多数の関係者を欺瞞したものであり、証券市場の信用を失墜させ、企業内容開示制度の社会的意義を阻害した弊害は著しく、ことにそれが社外に多数の投資家、債権者等の関係者を抱え、社会性、公共性の強い一部上場企業において、その社会的責任の重大性を最も強く自覚すべき最高幹部の手によつてなされたことをも併せ考えると、適正な経理処理を行ない、企業の資産、経理状態を明確にして公表させることにより一般投資家、債権者等の保護をはかるべく設けられた商法、証券取引法の各種規定及び制度に対する国民の信頼を揺るがすものとして、その結果は重大といわなければならない。

二更に、被告人個々の情状を見ても、被告人佐野は、永年に亘つて両社の代表取締役社長兼大株主としてワンマン的経営姿勢をとり、経理関係者をはじめとする部下の再三の進言にも拘らず、専ら自己の判断で粉飾決算の継続はもとより、本件違法配当、違法役員賞与支給の実施及びその額を決定していたうえ、自ら本件犯行によつて両社から(家族名義分を含めて)総計約一億円に昇る多額の支給を受けているものであつて、最も強く本件犯行の責任を負わねばならない。

次に、被告人有泉は、被告人佐野の信頼厚く、本件犯行の全期間に亘つて、両社の経理部門の最高責任者として、同被告人の片腕ともいうべき地位にあり、本来粉飾決算の中止、経営方針の改善を進言すべき立場にありながら、その指示に従い自ら経理関係者を指揮するなどして本件犯行に積極的に関与協力し、粉飾決算の実行面を担当していたものであつて、それによつて両社から総計約五八〇万円の利益を得ていることなども勘案すれば、その責任は軽視できない。

三しかしながら、本件において被告人らの犯罪を構成するのは、前記のとおり、本件両社における昭和四八年九月期から同五二年三月期における各粉飾決算にからむもののみであり、それぞれの期における決算内容としては両社とも多額の繰越欠損があつたため、その粉飾額(過大利益計上額)は多額にのぼるけれども、判示第一の一及び第二の一において違法配当によつて現実に両社に損害を与えた額は合計約一〇億円であること、また、判示第一の三及び第二の三において役員賞与の支給により現実に両社に損害を与えた額は合計約一億円であつて、右のような会社に与えた損害の程度をみる限り、必ずしも検察官の主張するように他に類例を見ないほどの大規模な犯罪といい難いものである。

もとより、本件犯行の背景には、前記のような十数年に亘る両社による巨額の粉飾決算があり、これらが本件の原因となつている点は被告人らの量刑にあたり看過し難いものがあるが、その経緯に徴するとき、本件においては、粉飾決算の遂行につき、両社の大株主であり、かつ、その主力取引銀行として多額の融資をしていた埼玉、大和両銀行との関連において特異な事情が窺われ、ひとり被告人両名に対してのみその責を負わすことはやや酷に過ぎると思われる面が存する。すなわち、右両行は既に昭和四〇年代中ころからは、両社による粉飾決算の存在をほぼ了知し、それにもかかわらずあえてその継続に異を唱えることなく、ただ迅速な経理改善の必要性を指摘するに止まり、却つて当面は対外施策上粉飾決算に基づく利益配当の実施を歓迎していた形跡すら窺われるのである。ことに本件犯行時点にあつては、右両行は不二サッシ両社に対する役職員の派遣、資金説明会席上での概況報告等により、両社の不正経理の全貌を殆ど把握していたにもかかわらず、その末期に至るまで自ら経理状況の実態の公開要求あるいは貸付金支払利息の金利軽減等の事態打開、不正経理制止のための積極的な措置に出ず、粉飾決算に了解を与えていた状況が窺われるのである。

加うるに、不二サッシ工業の財務内容が悪化したのは、昭和二〇年代後半に同社がサッシメーカーとして業績の急成長していたことに着目した埼玉銀行から、同行が多額の不良債権を有していた東洋造機株式会社の再建を依頼され、同社を不二サッシ工業に吸収合併するの止むなきに至り、その際、同社株式の買収資金を同銀行から借入れ、更に同銀行から全くその内容を事前に知らされていなかつた東洋造機の多額の簿外債務を引き継がざるを得なくなり、その後、大和銀行からも、系列化を図るという名目で赤字企業である東亜航空、日本航業、福徳長酒造等の経営を依頼され、これらの会社に対して厖大な資金を注ぎ込み、それらがいずれも不良債権化する等、かかる両銀行から要請された財務体質の不良な会社に対する資金援助による借入金支払利息の増大や、引受けた会社の借入金の返済による経費圧迫等の事情によるものであり、これらが、結局不二サッシ工業、同販売両社の粉飾決算実行に至る大きな要因をなしていることなどを併せ考えると、これらが被告人佐野の事業拡張欲と相まつたものであるとしても、同被告人の、過去三〇年間専ら銀行のために働いてきたようなものであるとの述懐も事の真相の一端を吐露したものとして、一概に排斥し得ないものがある。もとより、右のような銀行との取引は、いずれも被告人佐野の事業家としての緻密な計算と冷静な判断によつてみずからこれを諒として行なつて来たものであり、その後における粉飾決算の開始から本件犯行に至る一連の事態の選択はあくまで被告人ら(主として被告人佐野)の責任と判断の下に敢行されたものであるから、かかる埼玉、大和両銀行の本件粉飾決算に対する了承、協力ないし不良会社の経営の依頼等がその背後に存在したとしても、その故をもつて被告人両名の刑責を否定し得るものではない。しかしながら本件当時、株式取得率、融資状況、人員派遣等の事情により実質的に不二サッシ工業、同販売に大きな影響力を及ぼすことができ、かつ大口債権者でもあつた埼玉、大和両銀行における本件粉飾決算への姿勢を全く度外視することはできず、両社が、これほどまでに多額の粉飾決算を行ない、かつこれを継続するに至つた背景事情の一つとして被告人両名の量刑につき斟酌すべきである。

また、本件両社の会計監査を担当していた公認会計士においても、およそ昭和四六年ころから粉飾経理の存在に気づき、更に同五〇年六月ころには、両社合計で約九〇億円に及ぶ不適正な会計処理の存在を指摘した監査報告書案を、一旦被告人両名に示したにもかかわらず、粉飾決算の発覚を恐れた被告人佐野らの懇請、懐柔にあうや、安易にこれを承諾して限定意見の公表を控え、剰え翌五一年三月期及び五二年三月期の両期に亘つては、被告人両名らから粉飾経理の説明を 受けながら、その実情が公けになれば両社とも倒産の危機に瀕するので何とか見逃して貰いたい旨の依頼を受け入れて、粉飾決算を看過し、適正意見の監査報告書を作成するなど、企業内容の完全、正確な開示のため、本来会社経営者から独立して公正かつ正当な監査をなし、ひいて粉飾決算を未然に防止すべきその重要な職責を放擲し、却つて被告人両名に協力して粉飾決算の発覚を防ぎ、以て本件犯行の遂行を容易ならしめていた経緯が窺われるのであつて、かような公認会計士の自己の職責に甚しく悖る動向は、まさに本件犯行の態様の一部をなすものとして、被告人両名の量刑を考察するに当つて、配慮を要する点と言わねばならない。

以上の如き本件犯行が、主力銀行の実質的な関与及び公認会計士の協力の下に敢行された事情に加えて、不二サッシ工業、同販売両社が本件粉飾決算発覚に至つた後も前記両銀行等の支援によつて倒産を免れ、新しい経営陣の努力によつて再建に向い、その結果下請企業、債権者等に甚大な被害を及ぼさずに済んだこと、本件犯行の動機が専ら会社の信用保持、資産調達の便宜ひいては会社自体の存続をはかることにあり、特に被告人両名の私利私欲のみを充たすためのものではなく、却つて被告人両名はこの間会社の業績回復、経理改善のため種々努力しながらも遂に及ばなかつたものであること、被告人両名は本件犯行によりその地位及び社会的信用を失うなど相応の社会的制裁を受けているものと認められること等は被告人両名にとり有利な情状として斟酌すべきものである。更に被告人佐野については、本件により生涯をかけて築きあげた事業を失いながら、その後も不二サッシ両社に対し三五億円以上に及ぶ土地、株式等の私財を提供し、両社との間で本件犯行による損害賠償についての示談が成立していること、同被告人が永年に亘つて両社の業績の拡大に尽くし、我国におけるアルミサッシの開発普及等につき大きく貢献したものであること、被告人有泉については、被告人佐野同様会社との間で示談が成立していること、入社以来同被告人の深い信頼を受け、厚遇された関係上、同被告人に対しておのずから追従的な立場にあり、ことに自ら経理部門の責任者の地位に就いた時には既に会社の既定方針として永年に亘つて粉飾決算が続けられ、その額も巨額に昇つていたため、これを一挙に公表することによる会社倒産の危険も憂慮し、同被告人の指示を受けて会社の存続のために業務執行として本件犯行に及んだものであつて、不正経理の責任を被告人有泉にのみ帰せしめ難いこと等の事情が認められ、その他被告人両名は、本件犯行について、特別背任罪における図利目的はともかくとして、その他の事実は公判廷においてすべてこれを認め、犯行の責任を痛感して反省悔悟しており、いずれも前科もなく、再犯の虞れも存しないこと等被告人両名に有利な諸般の情状を総合勘案するとき、それぞれ主文掲記の懲役刑を科し、特にその執行を猶予して、社会内において過去の犯行の自覚反省を促すことが相当であると判断した次第である。

よつて、主文のとおり判決する。

(小泉祐康 松澤智 井上弘通)

別紙一覧表(一)

番号

決算期

実際

未処理損失

公表計上未処分利益

利益

配当額

配当率

(年)

株主総会

繰越利益

当期利益

日時

開催場所

1

第86期

48.4.1~48.9.30

13,129,923,714

39,449,665

342,770,358

382,220,023

240,187,500

1割

48.11.29

川崎市中原区中丸子135番地

不二サッシ工業株式会社

2

第87期48.10.1~49.3.31

12,378,615,004

42,032,523

459,280,809

501,313,332

240,187,500

49.5.30

3

第88期49.4.1~49.9.30

15,357,281,601

66,125,832

330,103,721

396,229,553

240,187,500

49.11.29

4

第89期49.10.1~50.3.31

18,514,183,795

55,042,053

206,387,502

261,429,555

144,112,500

6分

50.5.29

合計 864,675,000円

別紙一覧表(二)

番号

決算期

株主総会日時

利益金処分案における

役員賞与金

(円)

犯罪年月日

(賞与支給日)

支給を受けた

取締役監査役数

支給金額

(円)

1

第86期

48.11.29

15,000,000

48.12.14

佐野友二ほか22名

15,000,000

2

第87期

49.5.30

20,000,000

49.7.12

佐野友二ほか23名

18,560,000

3

第88期

49.11.29

16,000,000

49.12.19

50.1.23

佐野友二ほか25名

16,000,000

4

第89期

50.5.29

10,000,000

50.7.16

佐野友二ほか25名

10,000,000

合計 59,560,000円

別紙一覧表(三)

番号

決算期

実際

未処理損失

公表計上未処分利益

利益

配当額

配当率

(年)

株主総会

繰越利益

当期利益

日時

開催場所

1

第53期48.4.1~48.9.30

4,724,672,638

37,604,876

90,920,073

128,524,949

50,000,000

1割

48.11.30

川崎市中原区中丸子135番地

不二サッシ販売株式会社

2

第54期48.10.1~49.3.31

4,469,680,642

53,524,949

142,994,808

196,519,757

50,000,000

49.5.31

3

第55期49.4.1~49.9.30

4,382,472,162

20,519,757

209,665,512

230,185,269

50,000,000

49.11.30

4

第56期49.10.1~50.3.31

5,346,153,955

13,185,269

37,387,269

50,572,538

30,000,000

6分

50.5.30

合計 180,000,000円

別紙一覧表(四)

番号

決算期

株主

総会日時

利益金処分案における

役員賞与金

(円)

犯罪年月日

(賞与支給日)

支給を受けた

取締役監査役数

支給金額

(円)

1

第53期

48.11.30

10,000,000

48.12.14

佐野友二ほか18名

10,000,000

2

第54期

49.5.31

15,000,000

49.7.12

佐野友二ほか21名

15,000,000

3

第55期

49.11.30

12,000,000

49.12.19

50.1.23

佐野友二ほか22名

12,000,000

4

第56期

50.5.30

8,000,000

50.7.16

佐野友二ほか22名

8,000,000

合計 45,000,000円

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